安心して生活を楽しむことができる住まいづくり 鹿児島住宅リフォーム推進協議会

事例紹介

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第34回「住まいのリフォームコンクール」審査講評

 (公財)鹿児島県住宅・建築総合センターの主催する「住まいのリフォームコンクール」は今年で34回目となった。このコンクールは、住まいのリフォームの優れた事例を表彰し、住宅の改修を推進することを目的としている。今年の応募作品は、築90年のリフォーム作品もあったが、ほとんどが戦後の建築の改修作品だった。高度成長期の鉄骨系のプレハブ系の住宅の作品もあり、戦前の古民家だけでなく、戦後の住宅の改修の需要が増えているのではなかろうか。背景には、新築工事費が高騰しており、良質なリフォームが今後も注目されていくように考えられよう。

 昨年の夏は、多くの方々がとても暑かったという印象をお持ちではなかろうか。また光熱費も値上がりし、リフォームの際には、クライアントの要望で省エネルギーの対応が必至となっている。4月から脱炭素の取り組みから建築物省エネ法[建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律]により住宅の新築等に省エネ基準への適合性が求められる。これは、ようやく住宅にまでオペレーショナルカーボン(運用時のCO2排出量)の規制が生じたことになるが、建設から解体までの住宅全体のライフサイクルカーボンの規制には至っていない。解体時建設時に発生するエンボディドカーボンの算出まで義務化し建物全体のライフサイクルカーボンの抑制が行われて、地球環境に対するリフォームの優位性が改めて認識されることになるはずである。国土交通省では2030年頃にBIMとともに、エンボディドカーボンに関しての制度化を検討されているようである。

 一方、国では建築文化の振興に関する検討が進みつつある(注2)。これは、「文化芸術基本法」の規定に基づいた令和5年3月の「文化芸術推進基本計画(第2期)―価値創造と社会・経済の活性化―」の閣議決定により、今後の時代に相応しい建築、景観の維持管理や継承、創造が進むとともに、衣食住という観点から国民の生活に密接な領域として生活環境の質の向上や世界からの評価にも繋がるような取組を推進し、広く我が国の建築文化の価値を確立する取り組みを新たに進めていこうというものである。ヴィクトル・ユーゴー[1802-1885] が1825年に「建造物には2つのものがある。用と美である。用は所有者に属し、美は皆に属する。したがって、それは破壊する権利を上回る」と述べ、パリの景観の保全につながっていったと考えられるが、ようやく日本でも景観や景観を構成する建築の重要性に国が文化と経済の両面から推進することを宣言したことを意味している。この建築文化の振興は、文化だけでなく将来の日本のインバウンドの魅力の要となるとして、経済面から提起されていることが注目される。飛躍し過ぎかもしれないが、リフォームの際に、外観をどのように変えるのか変えないのかは、クライアントや設計者の意向も重要であるが、最も判断に重きを置くべきは、周辺の景観との整合性であろう。リフォームコンクールの審査で苦労するのは、そのリフォームが景観に寄与したのか否かが、なかなか応募資料からは読み取れない点である。できれば少し景観が理解できる写真を付けていただいたり、外構や景観について説明で触れていただくと審査の際に有効である。

 さて、今年度の審査委員会は11月14日に開催され、最初に審査委員全員の6名が15件の応募作品を各自読み込んだ後、一人6票を各作品に投票したところ、6票1作品、5票1作品、4票3作品、3票3作品、2票2作品、1票1作品となった。まず、満票の1作品を知事賞として、各作品について、意見交換を行い、次点の5票を理事長賞に決定した。その先はなかなか優劣がつけにくく意見交換を重ねたが、今年度の得票した作品はいずれもこれまでの受賞作品に匹敵するとの評価であった。そこで、企画賞の趣旨から住宅団地内で多様な住民の集いの場を提案した作品を企画賞とするとともに、優劣つけがたい他の得票作品すべてを奨励賞とすることにした。なお、例年、構造的な評価が高い作品に対して特別賞を設けていたが、今年度は該当作品がなく見送ることとなった。審査終了後、各応募者・設計者・施工者が事務局より審査員に開示され、また、今後のコンクールの募集内容等について意見が交わされた。

審査講評
住まいのリフォームコンクール審査委員会
    委員長 鯵坂徹[元鹿児島大学工学部教授]

審査委員
委員長鯵坂 徹 元鹿児島大学大学工学部教授
委 員八反田 淳一 (一社)鹿児島県建築士事務所協会会長
委 員打越 綾 (公社)鹿児島県建築士会女性部会幹事
委 員西村 昭一 (一社)鹿児島県建築構造設計事務所協会会長
委 員岩元 ミユキ 鹿児島県インテリアコーディネーター協会会長
委 員瀬戸 司 鹿児島県土木部建築課住宅政策室室長
委 員高崎 智幸 (公財)鹿児島県住宅・建築総合センター理事長
第34回「住まいのリフォームコンクール」入選作品集

鹿児島県知事賞:『清水麓の二ツ家造り~歴史を受け継ぎ次世代へつなぐ~』

 戦後まもない時期に建てられた築72年の民家を改修した作品で、審査員全員から票を得て知事賞に決定した。国分の清水麓の民家をアメリカ在住のクライアントが終の住まいとして購入し改修した。田の字平面のおもてと、水回りのなかえで構成されたふたつや形式の民家である。リフォームに際して、まず「極力形態を変えないエリア」「必要に応じた小規模改修エリア」「自由に創造可能なエリア」の3つに区分けし、計画をはじめている。これは、今では再現が難しい伝統的な構法でつくられている部分を『保存』し、昔の部材を生かしながら機能的に手を加える部分を『保全』、そして水回り等の大きく機能更新が必要な部分を『その他』に分ける文化財の保存活用の手法を、民家の改修に適用していると考えられる。この手法の結果、写真からは全面改修で大きな工事費がかかったと思われたが、約57坪の古民家を13.8万円/㎡で改修しており他の全面リフォーム案の工事単価の1/2〜1/3となっている。リフォームというとすべてを新しくしなくてはいけないというBefore Afterの考え方でなく、良いものは昔のものを活用し手をかけず、エージングされた材料をそのまま利用したBefore Beforeとでも言える方法である。要は手を付けない部分を増やすことで、工事費を抑えてその建築の持っている魅力(価値 ある意味オーセンティシティ)を活かしている。審査員からは、「構造から設備までこだわり省エネ、デザイン性、耐震性まで実施している」「昔のものがかっこよく蘇っている」等々高評価だった。また、「基礎部分はそのままであり、上部構造を可能な範囲で耐震補強しているようだ」「外観や外構まで手入れをしている点も良い」「できれば耐震補強を詳しく表記してほしかった」等の声があがった。

『清水麓の二ツ家造り~歴史を受け継ぎ次世代へつなぐ~』 有限会社 千匠設計

(公財)鹿児島県住宅・建築総合センター理事長賞:『木の香りとぬくもりに包まれる伊佐の家』

 十数年前に伊佐市にIターンしたクライアントが、借家として借りていた築68年の民家を購入し、リフォームした作品。ふたつやの流れを汲む田の字形式の「おもて」と、台所、和室、土間のある「なかえ」にあたる諸室で構成されていた平面形を、おもては2つの居室とウォークインクローゼット、水回りとし、なかえは土間を残してワンルームのダイニングキッチンに改修している。クライアントが、住み続けることにより、地域とその住宅に愛着が湧き、大切にしたいという思いが伝わる内容で、外観等にも地域への配慮が見られる素材や形態となっており、審査員から好感をもって評価された。伊佐の地域性を考え、耐震、断熱を行っており、断熱にはセルロースファイバーが用いられており、シロアリの被害に対しても有効な方法であろう。一方、環境負荷的に有効な縁側が取り払われ、また畳敷の部屋が一室もないことが気になる点であった。

『木の香りとぬくもりに包まれる伊佐の家』 有限会社 異島住建

企画賞:『地域住民共創の地域社会の再建築』

 築約49年の住宅団地にある鉄骨造の平屋の住宅の半分をレンタルスペースとして、地域住民のたまり場やイベントスペースして利用している作品。鹿児島市内の住宅団地は、高齢化により空家が生じており、それを打開するための一つとして実施していることが企画賞として評価された。工事単価10.8万円/㎡、総工費420万円の低予算でリフォームし、空家を活用して地域の活性化につなげようとしている。リフォームしてこの様な使われ方があることや、大学生や地域の方々を巻き込んでイベントが開催されていることを多くの方々に知っていただきたい。審査の過程では、「地域の人を巻き込んで設計している点が良い」「改修後も活用ができている点がすばらしい」といった意見が出ていた。

『地域住民共創の地域社会の再建築』 井尻 敬天

奨励賞:『平屋に減築し 次世代へ思いを繋ぐ』

 両親・祖父母から受け継いだ昭和40年代の住宅の大規模なリフォームで、数値をあげて耐震性能、省エネルギー性能共、向上がなされている。また、長期優良住宅リフォーム制度で認定を受けており、審査員からの評価が高かった。2階部分のだけでなく、1階部分も1/4程度減築されており、外観のイメージは一変しており新築と見紛うほどである。建屋の減築だけでなくブロック塀も低くし、補助金を活用した点は、この作品だけだった。設計者がリフォームについて熟知して取り組んでいることが伝わる質の高い改修内容としてまとめられている。審査では、外観が白い在来工法からサイディングのような木調に変わっている点や減築部分の位置が柱・梁の位置と一致していない等の意見があったが、好感が持てるとの意見が多かった。

『平屋に減築し 次世代へ思いを繋ぐ』 株式会社 建築工房匠

奨励賞:『時を紡ぐ家~Japandiの新しい風~』

 両親から受け継いだ築26年の民家の改修で、あまり使われていなかった南側の和室2室と中廊下をリビングダイニングに、北側にあったLDKをキッチンと小さな和室にリフォームした。1990年代末の建築で、改修前の素材も化粧プラスターボード等だったようであるが、木の障子と縁側が活用され、「和モダンと北欧デザインを融合した」現代的な和風に再生されている。コスト面でもプランの変更は、リビングダイニングの部分が中心で、再利用できる部分は利用したためか工事費が抑えられている点も好感が持てた。審査では、外観の説明資料がなかった点ともう少し和室が残っていてもと良かったのではないかとの意見があった。

『時を紡ぐ家~Japandiの新しい風~』 有邦開発 株式会社

奨励賞:『唯一MUNIの場所へ』

 今回の応募作品の中で最高齢、90年前の昭和10年頃に建てられた古民家のリフォーム。208㎡の内、一部をプライベートサウナ(別棟)付きの民泊として活用している。過半を占める住宅部分は、3室の和室を一室のリビングダイニングとし残りの2室の和室を洋室化、民泊部分はDKと2室の和室を洋室(ベッドルーム)とリビングに改修した。写真から現代的なインテリアが読み取れるが、縁側のほとんどが居室となり大部屋化されており、耐震性について資料がなく疑問が残った。また、和モダンというならもう少し畳や障子、無垢の木仕上げが残っていた方が、本物の和を表現できたのではなかろうかとの意見もあった。住宅と民泊の融合は今後の一つの可能性を示していて評価できる。

『唯一MUNIの場所へ』 株式会社 建築工房Work・Space

奨励賞:『素材を育てる家』

 築40年の約140㎡の住宅の内、約100㎡の部分を柱・梁までスケルトンにして間取りから変更したリフォーム。クライアントと相談して、現在手に入る多様な自然素材を使い、心地よい現代的なインテリアとしているが、古民家のような無垢の自然素材ではないのが残念である。セルロースファイバーの断熱は、シロアリにも効果あると考えらており、効果的と思われる。デザインでカバーしているが、審査では、「縁側がなくなり表層的な印象を受けてしまう」「耐震等の技術的な内容の説明が少ない」との意見があった。

『素材を育てる家』 株式会社 創建

奨励賞:『引き継ぐ家、つながる家族』

 築58年、6室の和室のある祖父母の家に若干増築して整形な形状としてリフォームした作品。大きなクローゼット、大きな一室のリビングダイニング等々、今のミドルエイジの住まいらしいスタイルとなっている。この作品も、リビングと一体化して縁側がなくなっており、残念である。写真からは、内部は白いビニールクロスで外部はサイディングと思われるが、すべてを更新するのでなく、一部の仕上げや部分を残してコストを抑える方法もあったのではなかろうか。審査では、「将来的に子供部屋を仕切れるようにしているのが良い」「構造的に、現しの梁・柱の欠きが気になる。埋木したほうが良かった」等の意見があった。

『引き継ぐ家、つながる家族』 有限会社 幸福住建

奨励賞:『古民家再生で自然に囲まれる保育園へ』

 木造住宅を用途変更し認可保育園に用途変更し活用したリフォーム作品。40年前の120㎡、中廊下で和室2室+キッチンと洋室3室が隔てられていた間取りを、3室のオープンな保育室と幼児用トイレに改修し活用している。天井を解体し構造体を露出させ壁量計算を行って、筋交いの追加、梁補強、耐震金物を追加して園児への安全性を確保し、不足する諸室のみ最小限の新築を行った。資料からは、心地よい内外部の様子が読み取れ、使われなくなっていた住宅を地域活性につながる用途して活用した点を評価した。空家が増えていく中、多用途にリフォームして使い続けることは、地域の活性化と新築を減らしてCO2排出量抑制につながるケースとして、今後も増えていくことが望まれる。

『古民家再生で自然に囲まれる保育園へ』 トラス・アーキテクト 株式会社

奨励賞:『民家の年輪』

 40代の夫婦が築33年の民家を購入しリフォームした作品。夫婦の住まい方に合わせて、コンクリート土間空間をLDKとしたインテリアが印象的で、和室の床の間部分にベッドが配置されており、お二人の住まい方と感性が伝わり、新たな住まい方の提案として評価できる。技術面では、寒冷地のため、90mmの断熱を壁と屋根に行っている。家族形態の変化に応じた中古住宅の改修により、住まい手の要望に合わせた新たな住まい方の可能性について応募資料で触れられており、興味深い。

『民家の年輪』 株式会社 ベガハウス

過去の「住まいのリフォームコンクール」

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