第27回「住まいのリフォームコンクール」審査講評
住まいのリフォームの優れた事例を表彰してリフォームを推進することを目的とした、(公財)鹿児島県住宅・建築総合センターの主催する
「住まいのリフォームコンクール」は今年で27回目となった。
今年の応募作品には、民家を住み続けるために改修した作品が目につき、例年応募のあるマンションのリフォーム案があまり見られなかった。
人口減少、高齢化、地球環境問題がますます顕在化しつつある。建築を大切に使い続け、地域の住環境を良好に保つことができるリフォームの 果たす役割は重要である。長年そのまちに親しまれてきた建築をまちなみに残し使い続けていくことは、まちの歴史と文化の厚みを増しつつ、 その住環境の向上と維持が可能である。
今年9月はじめの日本建築学会の材料系研究協議会で「鉄筋コンクリート造建築物の限界状態再考-中性化は寿命か?」という
パネルディスカッションが開催された。
そこでコンクリートが中性化しても環境条件により鉄筋が錆びることはなく、例えば室内環境では中性化は建築寿命とは関係ないことが表明された。
ある意味、鉄筋コンクリート造建築物は維持管理を適切に実施すれば寿命は数百年以上可能であると言ってもよくなった。
応募作品の中にも鉄筋コンクリート造住宅の応募が見られ、次回以降も鉄筋コンクリート造住宅のリフォーム案の応募が望まれよう。
他方、古民家の改修作品も目を引き、今後もさらに増えていくことを期待したい。
これらの改修では伝統的な素材の活用も確認でき、地域で生産や施工される畳や左官材は、地域経済の活性化に役立つことから、審査では重要視した。
関東や関西で生産された材料等は必要ではあるが、使用しても地元の鹿児島の経済への貢献が低いことを設計者・施工者が理解し、
計画、施工を進めていただけないかと思う。
さて、今回は計26件の応募があった。審査委員会は9月8日に開催され、最初に7名の審査委員(鹿児島県事務所協会東條会長は欠席で
中村副会長が代理出席)が8作品選び、満票だった『長期優良住宅化リフォームS基準で安心安全なK邸』を知事賞に選考した。
その際、5票が一作品、4票が五作品、3票が一作品で、票が入らなかった五作品を議論の上選考から外し、2票の七作品のうち、
主に特徴的な五作品を敗者復活として加え、十二作品から審査委員が五作品を再度再投票した。
そこで6票獲得した『先祖から受け継ぐ古民家』を理事長賞に決定し、その作品以外の4票以上の五作品の順位を決め企画賞、奨励賞を選考するため、
審査委員が三作品を再び投票した。
その結果、『森を棲み継ぐ』(6票)『古民家を温熱的バリアフリー住宅に』(5票)『生まれ育った家で3世代が安心に暮らす家』(4票) 『減築で住み続けるためのリノベーション』(4票)の四作品を企画賞に、『Revive~強くて、快適な暮らしを求めて~』(2票)を奨励賞に決定した。
2回目の投票で落選した四作品について慎重に評価し『FORUM-人が集う場所-』『ルーバー・タワー』を特別賞に選び、部門賞については
全応募作について意見交換し、『耐震診断を行ってからリフォームしませんか』を選考した。
選考が終了した後に事務局より設計者名の発表があり、審査委員の設計事務所の作品が一点特別賞に選定されたことが判明したが、
その審査委員は公用により欠席で投票には参加しておらず、最後まで厳正に審査を実施することができたことをご報告したい。
審査講評
住まいのリフォームコンクール審査委員会
委員長 鯵坂 徹 [鹿児島大学大学院理工学研究科 教授]
審査委員
委員長 | 鯵坂 徹 鹿児島大学学術研究院理工学域工学系教授 |
---|---|
委 員 | 東條 正博 (一社)鹿児島県建築士事務所協会会長 |
委 員 | 本房 美保 (公社)鹿児島県建築士会女性部会副部会長 |
委 員 | 茶圓 次春 (一社)鹿児島県建築構造設計事務所協会会長 |
委 員 | 岩元 ミユキ 鹿児島県インテリアコーディネーター協会会長 |
委 員 | 福永 貴幸 鹿児島県土木部建築課住宅政策室長 |
委 員 | 西薗 幸弘 (公財)鹿児島県住宅・建築総合センター理事長 |
第27回「住まいのリフォームコンクール」入選作品集 |
鹿児島県知事賞:『長期優良住宅化リフォームS基準で安心安全なK邸』
平成元年に竣工した鹿児島県住宅供給公社の分譲住宅を中古住宅として購入、家族の構成と成長に合わせ改修したリフォーム。
8年居住した施主が解体して建て替えるのは偲びないと考え、1階の3部屋をリビングに、旧居間をゆとりある寝室に改修。 その際、瓦屋根を金属屋根に、モルタルのバルコニー手摺を木質に変えてデザインを一新するとともに軽量化をはかり、耐震性の向上が実施されている。
結果として新築のような「暖かい・リビングの吹抜け・書斎・家事室等 家族が安心して住める家」となっている。畳の部屋が一掃されたのは残念だが、 審査委員全員の賛同で知事賞に選定した。
『長期優良住宅化リフォームS基準で安心安全なK邸』 | 株式会社 建築工房 匠 |
(公財)鹿児島県住宅・建築総合センター理事長賞:『先祖から受け継ぐ古民家』
築90年の和室4室の田の字型+台所プランの古民家を、洋室と和室の現代的な平面に改修した作品。有彩色の土壁を漆喰に塗り直し、 明るいモダンなインテリアとなっている。
天井の竿縁天井も活用されているようで、漆喰をはじめとする伝統工法が使われており、古民家のポテンシャルをうまく引き出した点を評価した。 また、断熱の増強や玄関の段差処理、収納の増強等々、生活面にも配慮したことも評価された。
応募シートに外観の説明がなく残念であったが、内観の伝統とモダンの交錯した和のデザインが、応募作品の中でも目を引いた作品である。
『先祖から受け継ぐ古民家』 | 株式会社 建築工房 workspace |
企画賞:『森を棲み継ぐ』
離島にある施主の父の家を、祖父が植えた樹齢80年の杉を利用しリフォームした作品で、ゲストルームと居住部分の間に中廊下を新設、 世界各地からの来客を迎える夫婦の住宅に機能更新した作品。
西側のDKを東側へ移し増築し、ウッドデッキに続く広がりあるLDKとし、納戸をキッチンに改修。また2つの書斎と寝室のロフト等も、 既存建築の再利用とは思えない使いやすいプランニングとなっている。
インテリアは、続間の和室を除き、和のしつらえから現代的な木の香るデザインに再構成されている。 平面とインテリアの再構成に設計者の手腕が光る作品の一つである。
『森を棲み継ぐ』 | DORON 建築設計事務所 |
企画賞:『古民家を温熱的バリアフリー住宅に』
母屋と馬屋の連棟型の築60年の入母屋の民家のリフォーム。
馬屋側の屋根形状を単純な形状に改修し風雨対策を万全とし、壁を大壁としてセルロースファイバーを充填して断熱性能を向上させている。
セルロースファイバーにはホウ酸が含まれているので、防蟻対策も兼ねていると考えられる。
床材や天井材も一新され現代的なデザインであるが、竿縁天井や土壁、畳が全て更新され、伝統的な素材や工法が用いられていないのが気になる点である。
『古民家を温熱的バリアフリー住宅に』 | 株式会社 建築工房 自然木 |
企画賞:『生まれ育った家で3世代が安心に暮らす家』
マンションに移り住んだため空き家となっていた実家を改修し、母・娘夫婦・孫が一緒に住める住宅にリフォームした作品。
耐震補強とともに階段を緩勾配とし、収納の増設、水回りの一新等により高齢者から子供まで住みやすい機能に更新されている。
ただ壁は真壁から大壁に改修され、畳も一掃されているのが少し残念である。
『生まれ育った家で3世代が安心に暮らす家』 | 有限会社 ゆうあいプラン |
企画賞:『減築で住み続けるためのリノベーション』
昔ながらのまちなみが残る名山町の店舗付住宅のリノベーション。
増築部の3階を撤去し減築により構造耐力を向上させた。そして、3階の階段のペントハウスから自然光を導入し階段を光のシャフトとするため、 階段の段床をファイバーグレーチングで計画、それまでビルに囲まれて暗かったLDKを明るい心地よい空間に一変させた作品。
もともとの建替の要望を、名山町の景観を継承するため改修を設計者が提案して実現した作品で、設計者にエールを送りたい。
『減築で住み続けるためのリノベーション』 | 株式会社 プラスディー設計室 |
奨励賞:『Revive~強くて、快適な暮らしを求めて~』
自治体の耐震診断・補強改修補助金、国の住宅省エネリノベーション促進事業補助金を活用したリフォーム作品。
平面計画としては、洗面脱衣やトイレ、2階の物干し部屋等のスペースを充実させ機能向上を目指した。床下にはセロースファイバーを吹き込み、 省エネルギーと防蟻対策を実施している。
白い外観が金属サイディングによる濃灰色に変わり、建物のイメージはまったく昔のイメージを一新し変貌している。
『Revive~強くて、快適な暮らしを求めて~』 | 津曲工業 株式会社 |
特別賞:『FORUM-人が集う場所-』
約30年前のコンクリート打ち放しの建築をリフォーム。
高圧洗浄により長年の外壁の汚れを落とし再塗装し、写真からは竣工時のような状況が窺える。居住部分の2階から4階は現在の建築主の家族が 快適にすごせるように改修されている。
『FORUM-人が集う場所-』 | 株式会社 東条設計 |
特別賞:『ルーバー・タワー』
奄美に建つ4層の複合ビルをオーナー宅も含めた6戸の共同住宅に2階から4階をリノベーションした作品。
2階は元店舗で、窓開口が大きく日射の負荷が大きかったため、アルミ製のルーバーを道路面全面に取り付け、その結果、
新たな外観がまちなみに現れ評判となっていると思われる。
また、インテリアは白い天井と白い壁を主体に、フローリングで構成されたシンプルなデザインにまとめられ、若者達が居住するのではないかと予感される。
外観と新たな機能によりまちを活性化する一翼を担うのではないかと期待される作品である。
『ルーバー・タワー』 | 株式会社 酒井建築事務所 |
部門賞(耐震補強+水回り改修):『耐震診断を行ってからリフォームしませんか』
自治体の支え愛ファミリー住宅改修応援事業による耐震診断費用、耐震改修費用の一部助成を受けながら、浴室まわりと居間の一部の壁を補強し、 経年で使いづらくなっていた在来工法の浴室をユニットバスに改修した作品。
工事費200万円以下で、施主の要望である耐震補強と水廻りのリフォームを実現しており、今年度は部門賞にこのリフォーム作品を選定した。
少しづつ改修することにより、建築を使い続けていく好例の一つである。
『耐震診断を行ってからリフォームしませんか』 | 野津建築設計事務所 |