第25回「住まいのリフォームコンクール」
住まいのリフォームの優れた事例を表彰してリフォームを推進することを目的とした、(公財)鹿児島県住宅・建築総合センターの主催する「住まいのリフォームコンクール」は今年で25回目となりました。今回は四半世紀の記念すべきコンクールで、地域の景観へ配慮した作品、2住戸を1住戸に改修した作品、減築した作品等、今後のコンクルールに示唆を与えるような多様な応募が集まりました。
25年前の平成元年、平成二年(1990年)頃の日本はまだバブル経済の中にあり、古くなり使いにくくなったら建て替えるという時代でした。それが人口減少、高齢化、地球環境問題が浮上した今日、建築を大切に使い続けていく時代に変わりつつあるようです。日本の都市計画の制度では、突如、隣にマンションの計画が持ち上がり、周辺住民の反対運動につながってしまうことが散見されます。まちに住まわれている方々から見ると、リフォームのよいところは、建物のボリュームが変わらないため、周辺の住環境が維持されることではないでしょうか。また、長年そのまちに親しまれてきた建築をまちなみに残していくことは,まちの歴史と文化の厚みを増しつつ、まちなみを美しい景観とすることも可能です。
さて、今回は計29件の応募がありました。審査委員会が10月6日に開催され、最初に各審査委員が数作品選び、意見交換を重ねながら,知事賞をしぼりこみました。その後も意見が分かれた場合には逐次投票を行い、理事長賞、企画賞、奨励賞、特別賞、部門賞を厳正に選考致しました。
鹿児島県知事賞
築38年の在来工法の住宅を、鹿児島市の耐震診断・補強補助制度を活用したリフォームで、デザイン、機能性、快適性、環境性能を全て向上させながら、経済性にも優れている点が評価されました。
6人家族が住むために、壁を取り去り16畳のLDKにし、ロフトや各所の収納スペースを拡充させて、機能性を高めた平面計画に改善されています。そして、台所にトップライトを設ける等、各スペースが明るいインテリアに変貌しています。応募用紙に耐震性能や断熱性能の内容も説明されており、外観のデザインも新築に劣らないデザインにまとめられていました。
昔の想い出の色ガラスを再利用する等、リフォームのならではの提案もあり、建替よりも工期とコスト含めて、建築主が満足されていると評価し、鹿児島県知事賞に審査員全員の賛同できまりました。
平屋をゆったり 驚きのリノベーション | (株) 建築工房匠 |
(財)鹿児島県住宅・建築総合センター理事長賞
築150年の古民家のある土地を、定年退職後の生活拠点として、新築するために建築主が購入されたのですが、「古民家が集落の景観の一部になっている。壊すのは、これから住む集落の方々に申し訳ない。」と思い直されて古民家をリフォームする相談がはじまり実現した作品です。
まずこの建築主さんの思いに賞をさしあげたいと思います。しかも母屋をリフォームするだけでなく、馬屋も多目的なスペースとして改修され、母屋と馬屋の双方のボリュームが継承され、集落の景観が維持されています。そして、改修の内容も、バリアフリー、断熱、古材を生かしたインテリ等々よく考えられており、エネルギー削減率132%を達成しています。
「平成25年住宅のゼロ・エネルギー化推進事業」に採択され、補助も受けられているようで、設計者の能力と努力も高く評価したい作品です。
古民家をバリアフリーのゼロエネ住宅に | (株) 建築工房 自然木 |
企画賞
母を介護しご夫婦で住まわれるためのリフォームの作品。
建物は、ご両親が長年生活された愛着のある築60年の民家です。そのため、お父様のこだわりの建具をそのまま活用し、仏間がタイムスリップしたかのように再現さています。平面計画は、トイレとバスが母の洋室の左右に配置され、お母様の介護を最優先に再構成されています。また、インテリアに木質系の材料が使われており、建物全体が「癒しの空間」になっている印象を受けました。
構造や断熱性能、コストといった問題から致し方ないですが、外観に内部で使われている古材の活用があればさらに素晴らしかったのではと思います。
感謝の気持ちをこめて | 株式会社 鹿児島タニザキ |
企画賞
築40年経ち、構造や断熱に問題もあり機能更新されたのですが、外観・内観ともに、リフォーム後の写真は、新築ではないかと思えるほど、美しくデザインされた作品です。
長年親しまれてきた一本桜が見える位置にリビングダイニングを配置し、それまでの小部屋に分かれていた平面計画をみなが集まれるコミュニケーション空間にリフォームされています。
自然を眺められる浴室もすばらしく、保養施設として、人気が高まっているのではないかと想像されます。
五感の森 霧島山荘 | (株) ベルハウジング |
企画賞
5年前に建て替えた住宅のアプローチを改修した作品です。
アプローチの段差を解消するためのスロープを設けた提案ですが、手摺りを設けたスロープが玄関前に現れるところ、植栽や木柵を巧みに配置して、大変美しいしつらえに改修されています。機器や玄関への見通しも改善され、毎日の出入りが楽しめる小空間が出現しました。
外構のリフォームだったため、今回の応募作品の中で工事金額が最小でしたが、周辺の環境の改善にはその数十倍の効果があったのではないでしょうか。今後、住宅のリフォームの作品にも、このような周辺環境への提案が含まれていくことを期待したいと思います。
季節(とき)を愛(め)でるアプローチ | 有限会社 坂口サン建築 |
奨励賞
築38年のマンションの一室の全面リフォーム案。
ありふれた3LDKの空間でしたが、ワークルーム以外を欄間のある一つの壁だけで仕切られた一室空間とした案で、自然素材が使われたインテリアは、広々として快適な印象で、マンションのリフォームとして審査員から高い評価がありました。
また、審査員からは、お子さんの寝室等、どのように使うのだろうかとの意見もあり、生活の変化にともない、将来のリフォームも見据えた提案なのではないかと想像しています。
イマダ!マイホーム! | シロクマ*プラン |
奨励賞
駐車場を設けるため、築30年の住宅を減築しながら、平面構成を現代風にリフォームした作品です。
以前のインテリアに比べ、バリアフリーに配慮しながら、減築をうまく活用して明るい空間に改修し、外観もすっきりしたデザインとなっています。
ブロック塀を撤去してオープンスペース化した点も評価されますが、できれば少し植栽や花鉢が応募シートの写真にあれば一層評価が高かったのではと思われます。
30年の時を越えて親から子へ住み継がれる家 | (株) 丸三建設工業 |
奨励賞
欧米では昔の手狭になった集合住宅を建て替えるのでなく、2住戸を1住戸に改修して使い続けている事例が多いのですが、この作品は築25年の鉄筋コンクリート造の2住戸の長屋を1住戸にリフォームした作品です。
閉鎖的だった和室もリビングと一体に利用でき、個室も充実し、それまでの居住空間と一変しながらも、親しみあるそれまで住んでいた場所で生活できるリフォームとして素晴らしい提案です。
今後もこのように集合住宅や長屋の住戸数を減らして住み続けるリフォームの提案が増えていくことを期待します。
大家族が集う木が香るリビング | 株式会社 盛洋建設 |
特別賞
築23年の住宅のリフォームの作品。
廊下を減らして有効な居室スペースを確保、家族が集まるリビングを拡げて、個室を左右に機能的に再配置した計画で、リフォームの平面計画がよく考えられています。
耐震や断熱性能も向上されていますが、木質系の仕上げや珪藻土、断熱にもセルロースファイバーといった材料が使われ、エコ・リフォームとも言える提案内容です。
住み継がれる家 | 株式会社 創建 |
特別賞
新耐震基準前の築37年の住宅を鹿児島市安全安心住宅ストック事業により耐震診断、耐震補強を実施した作品です。
既存の無筋の基礎に有筋の基礎を抱き合わせた補強や2階の地震力を1階に伝達するため床の補強等も行われています。
また応募シートに耐震補強の工事中の状況がわかりやすく表現されており、審査員から耐震補強の特別賞に相応しいとの評価を得ました。
S邸 耐震補強改修工事 | (株) K設計 |
部門賞
築15年の住宅の2階部分のリフォームの作品です。
もとの漆喰壁を生かすために漆喰塗装を用い、杉材、無農薬の畳等、体に触れて良い自然の材料で改修をした作品です。
リフォームして即座に日常生活に利用されることを考えた素材の選択に、他の作品にない配慮があり、評価されました。
自然素材に囲まれたマイルームへ | (有) 西谷工業 |
審査講評
住まいのリフォームコンクール審査委員会
委員長 鯵坂徹(鹿児島大学大学院理工学研究科 教授)