安心して生活を楽しむことができる住まいづくり 鹿児島住宅リフォーム推進協議会

事例紹介

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第30回「住まいのリフォームコンクール」審査講評

住まいのリフォームの優れた事例を表彰してリフォームを推進することを目的とした、(公財)鹿児島県住宅・建築総合センターの主催する「住まいのリフォームコンクール」は今年で30回目となった。今年の応募作品は、木造や鉄筋コンクリート造の築60年から築11年までの17件で、築40年代から築30年代の戸建て木造のリフォーム作品が多かった。鉄筋コンクリートの共同住宅の改修作品が2作品と少なかった。

今回の多くの木造戸建ての作品は、それまで最も格が高かった座敷の床や欄間、引き戸・畳・縁側を撤去して大壁のクロス張りのインテリアに変え、畳敷もほとんど室内から姿を消していた。ある意味、室内はRCの共同住宅とほとんど変わらない設えとなっている。建築学科に入学する学生は、今やほとんどが、畳や障子を知らない世代となっている。しかし、畳や障子は、地域にまだ畳屋、建具屋があり、それらをリフォームで使うことは、地域経済の活性化にもつながるはずである。

審査では、屋根形状に合わせて天井高さを確保している作品も見られたが、木造戸建てらしい、和のモダンとも言えるような提案があってもよいのではないだろうか。木造建築が持っている良さを捨て去るのでなく、木造の民家にある味わいを引き出すようなモダンデザインは、今の若手から中高年まで受け入れられる可能性が高い。コロナ感染下、来日する海外旅行者の姿はほとんど見られなくなったが、彼らは畳や真壁の設えを求めている。例えば、和室の床に、現代アートの額をかけてみるとその設えは、急に古風な印象からモダンなイメージに変えることができる。身近にある日本の伝統的な美しさを見直し生かすことにより、新築戸建て住宅よりリフォーム戸建て住宅の方に魅力を感じる建築主が増えていってほしいものである。

また、木造住宅の大壁部分は、内部にシロアリが営巣しやすく、何らかの対策を行うことが望ましい。今回の受賞作の中でも、大壁の断熱に、ホウ酸系の断熱材の一つであるセルロースファイバーを防蟻対策として施工している作品が見られた。真壁を内部間仕切りに使えれば、地震等の際に、大壁構造では主構造が見えずどこが被災したかわからないが、真壁構造では主構造が露出しており、被災した部分が一目瞭然である。このような長所は、長年日本で培われてきた伝統木造の知恵の一つでもある。

さて、今年度の審査委員会は9月28日に開催され、最初に7名の審査委員が17件の応募作品を各自読み込んだ後、一人7票を各作品に投票した。今回は満票の作品がなく、6票が一作品、5票が三作品、四票が二作品、3票が三作品、2票が三作品、1票が四作品、票の入らなかった作品が一作品となった。まず、1票2票の作品について、議論を行った。その結果、2票の作品で伝統的な材料を用いた小規模改修案があり、それを含めた10作品で再投票を行い、6票が三作品、5票が四作品、3票が二作品となった。そこで6票と5票の計7作品について意見交換し、その七作品に審査員が3票ずつ投票、5票が一作品、4票が一作品、3票が二作品、2票が二作品となった。

そこで、5票の『シニア世代の二世帯住宅 快適平屋の住まい』を県知事賞、次点だった4票の『リノイエ〜Re:Neue〜』を理事長賞、3票の二作品『思い出と暮らすセカンドライフ』、『諦めていた大きなリビング』を企画賞、2票の三作品『色彩・素材の力で空間に息吹を与える』、『景色をコントロールする家』、『二世代にわたる終の棲家』を奨励賞に決定した。今年度は、優れた耐震補強の作品を主に表彰していた特別賞は対象作品無しとし、一歩及ばなかったが小規模改修の『和壁の魅力』を部門賞とすることとなった。  

今年度は、知事賞、理事長賞の他に、企画賞2作品、奨励賞3作品、部門賞1作品の総計8作品を受賞対象として、最終決定した。なお、審査終了後、各応募者・設計者・施工者が事務局より審査員に開示され、また、今後のコンクールの募集内容等について意見が交わされた。

審査講評

住まいのリフォームコンクール審査委員会
委員長 鯵坂 徹 [鹿児島大学大学院理工学研究科 教授]

審査委員
委員長鯵坂 徹 鹿児島大学学術研究院理工学域工学系教授
委 員古川 稔 (一社)鹿児島県建築士事務所協会会長
委 員打越 綾 (公社)鹿児島県建築士会女性部会幹事
委 員桑原 耕 (一社)鹿児島県建築構造設計事務所協会会長
委 員岩元 ミユキ 鹿児島県インテリアコーディネーター協会会長
委 員高崎 智幸 鹿児島県土木部建築課住宅政策室長
委 員西薗 幸弘 (公財)鹿児島県住宅・建築総合センター理事長
第30回「住まいのリフォームコンクール」入選作品集

鹿児島県知事賞:『シニア世代の二世帯住宅 快適平屋の住まい』

築23年の木造二階建ての住宅の2階部分を解体、軸組状態として耐震補強を行い、長期優良住宅、BELSの認定を取得した平屋の戸建て住宅の作品。

国土交通省の長期優良住宅化リフォーム推進事業の補助金も受け耐震性能等も向上させ、高齢の母と夫婦のすまいに改修した点も評価が高かった。2階を減築したので、室内外とも、以前とはまったく異なる空間、デザインに改修されており、県知事賞にふさわしいリフォーム作品である。

可能であれば、畳敷の部屋が一室あってもよかったのではないかと惜しまれる。

『シニア世代の二世帯住宅 快適平屋の住まい』 有限会社ゆうあいプラン

(公財)鹿児島県住宅・建築総合センター理事長賞:『リノイエ~Re:Neue~』

指宿市の築約60年の空き家の木造平屋住宅をリフォームして賃貸住宅として活用する積極的な提案。

県内では、空き家が増え続けており、その朽ちつつある民家を生き返らせた点の評価が高かった。民家の田の字型平面が、一見するとRC共同住宅の平面のように改修されているが、ユーティリティまで含めた各室に窓が確保され、戸建て住宅だから可能な快適な居住空間を確認できる。

屋根は瓦葺きの入母屋から片流れの金属葺きに一新されているが、果たして周りのまちなみにふさわしいかは審査資料から読み取れなかった。

『リノイエ~Re:Neue~』 有限会社幸福住建

企画賞:『諦めていた大きなリビング』

県北にある築35年の両親の123㎡の平屋をリフォームした作品で、長期優良住宅リフォーム評価基準型を取り入れている。

田の字平面とも思われる中央部分の左右に水回りと洋室が配置されていたが、中央部分をほぼ一室のLDKとし、左右を個室に全面改修している。

しかし、外壁が白から濃色に変わってはいるが、入母屋の瓦の屋根形状は前と変わらず、地域の景観に馴染んでいるように思われ、評価できる。

『諦めていた大きなリビング』 有限会社リビング亀沢

企画賞:『思い出と暮らすセカンドライフ』

築37年の平屋の住宅をリフォームし、金属葺きの軽快な住宅とした作品で、WEB上にリノベ塾と題し、改修の過程を詳しく情報発信している点も評価された

ZEH基準を満たし、縁側や中廊下を取り込み広々とした空間に一新、漆喰や畳を用いて和モダンとアピールして好感がもてる内容だった。

また、縁側をなくしているが、外縁を新たに設けて、庭との関係性を確保しており、設計者の細かい配慮と力量が読み取れる。ただ、個人的にはもう少し、伝統的な設えとする可能性もあったのではないかと感じた。

『思い出と暮らすセカンドライフ』 株式会社正匠

奨励賞:『色彩・素材の力で空間に息吹を与える』

築30年の中古住宅を新しい家主となった家族に合わせてリフォームした作品。

「色彩・素材」を変えることによりインテリアを一新することを意図している。不要となった車庫上の二階部分を減築した点が評価されたが、残念ながら審査資料にリフォーム後の外観写真がなく惜しまれた。

確かに色彩を変えることはコストを抑えてイメージを一新できる方法である。しかし、構造的な制約から困難だったと思われるが、あと一歩空間的な提案があってもよかったのではないかと思われる。

『色彩・素材の力で空間に息吹を与える』 志賀建築設計室

奨励賞:『景色をコントロールする家』

今回受賞作品の中で、唯一のRC共同住宅のリフォーム案。大型の4LDKの改修で、築年が11年と浅く審査員の評価がわかれた。

ただRC分譲マンションの場合、間取りが決まっているので、立地と景観等で購入し、今回のように定年を区切りに間取りを本来の住み方にリフォームする可能性があると判断した。

桜島の展望を生かすため、敢えて室内に段差を設け、上げ下げ障子を採用する等々、心地よい空間が読み取れ、好感のもてる作品である。

『景色をコントロールする家』 株式会社IFOO

奨励賞:『二世代にわたる終の棲家』

県北の築50年の平屋を、定年を機に両親と同居するため全面リフォームした作品。

住まい方の変化に応じて、玄関や水回りの位置も変え、屋根も切妻の金属葺きに変えている。足元周りの防蟻対策だけでなく、セルロースファイバーの断熱工法を採用している点も評価された。

住み方から止むをえず選択したと考えられるが、南側に食品庫や玄関が配置されており、審査員から疑問の声があった。敷地の状況がもう少し理解できる審査資料が欲しかった。

『二世代にわたる終の棲家』 株式会社タケシタ

部門賞:『和壁の魅力』

築18年のRC住宅の一部を改築し、外部の路地状だった細長い空間を寝室に増築改修した作品。

漆喰や障子、畳、縁側空間があり、和のモダンの設えである。また、寝室は天井照明を無くして間接照明、ウォールウォッシャー、スタンド照明としている点が、心地よい空間にしている。

寝室には天井照明をつけないという照明デザインの基本原則が読み取れ、建築主の考えと設計者の力量を高く評価したい。小規模改修があまり見られず部門賞となったが、改修の質の高さは卓越している。

『和壁の魅力』 株式会社建築工房Work・Space

審査講評
住まいのリフォームコンクール審査委員会
    委員長 鯵坂徹(鹿児島大学大学院理工学研究科 教授)

過去の「住まいのリフォームコンクール」

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