第33回「住まいのリフォームコンクール」審査講評
住まいのリフォームの優れた事例を表彰してリフォームを推進することを⽬的とした、(公財)⿅児島県住宅・建築総合センターの主催する「住まいのリフォームコンクール」は今年で33 回⽬となった。 今年の応募作品は、築183 年以上から築16 年までの17 件で、築35 年以上が15 件と全体の9 割弱を占め、中でも築100 年以上の建築が3 件含まれていた。それらの構造等の内訳は、⽊造⼾建て住宅が12 件、RC 共同住宅が2 件、RC ⼾建てや混構造が3 件で、合計17 件での応募作品の審査となった。
この夏は線状降⽔帯による豪⾬、発達した台⾵、これまで体験したことのなかった酷暑があり、多くの⼈が地球温暖化が無視できないと感じているのではないだろうか。建築物は新築時と解体時に多量な CO2 を発⽣する。既存建築を省エネルギー化して⻑期間使い続け、運⽤時の照明・冷暖房・給湯・給排気等エネルギー使⽤量を縮減し、CO2 の発⽣量を抑えることは、地球温暖化防⽌に⼤きな効果がある。 しかし、既存建築を建て替えるとなると、新築時の材料の⽣産や運搬、解体時の分別・再⽣・運搬等により発⽣するCO2 は、運⽤時の様に減らすことが難しく、その規模に応じてCO2 を発⽣させてしまう。 また、SDGs の⾯から考えると、CO2 の発⽣だけでなく、建築の新築時に必要となるコンクリート⾻材の砂の採集は、⼭河や海底等の⾃然環境の破壊を巻き起こす。 解体時の廃棄物処理の際、最終処分場での環境破壊を引き起こす。SDGs の観点から、リフォームは、建築物の省エネルギーや耐震性能をアップさせ、解体新築の CO2 を⽣じないことから、建替えに⽐べて、地球温暖化防⽌だけでなく⾃然環境の保全にも⼤きな効果があると断⾔できよう。2022 年から⽇本建築学会の鉄筋コ ンクリート建築の仕様書(JASS5)が改定され、これまで、鉄筋コンクリートの寿命はコンクリートの中性化のため50 年程度と定められていたが、鉄筋コンクリー トの躯体内に⽔が侵⼊しない限り鉄筋コンクリートの物理的な寿命である爆裂は発⽣せず、鉄筋コンクリートの物理的な寿命は、もっと⻑いことが明らかになった。 例えば鉄筋コンクリート橋脚でつくられた東海道新幹線は1964 年に開通、現在、約60 歳であり、これまでの考え⽅なら、すでに寿命で、とても時速285Km では 危なくて⾛⾏できないはずである。しかし緊急にそれらの⾼架橋等を全て造り直さなくてはならないという話にはなっていない。建築分野では、税法上の減価償却 の期間50 年が、鉄筋コンクリート造の寿命と考えられており、「⽼朽化」により建て替えることが当たり前となっている。この誤ったこれまでの考え⽅により、今 でも使える鉄筋コンクリート建築が沢⼭、次々に壊され建て替えられている。⽊造建築は鉄筋コンクリート造より、耐震性や機能上の問題から、更に建替えと判断 されているが、耐震補強も断熱性の向上もリフォームで可能である。もし、多くの⼈が本来の建築の寿命に気が付き、建替えでなくまずリフォームすることを考え る様になれば、地球環境の持続性に⼤きく貢献する。何より建替えより⼯期は短く、コストも安い。リフォームがあたりまえとなれば、欧⽶の様な歴史的⽂化的な まちなみが、いつか⽇本でも⾒られるようになるのかもしれない。
さて、今年度の審査委員会は7 ⽉25 ⽇に開催され、最初に審査委員全員の7 名が17 件の応募作品を各⾃読み込んだ後、⼀⼈6 票を各作品に投票したところ、5票3作品、4票3作品、3票2作品、2票 3作品、1票3作品、0票3作品と満票がなく票が割れた。0〜2 票の9 作品について、1 作品ずつ各々の評価点等の意⾒交換を⾏い、3〜5 票の8 作品にセルフビルドで施⼯した作品を加えた9 作品に対して 審査員が⼀⼈5 票を投票した。その結果、6票1作品、5票1作品、4票3作品、3票3作品、2票1作品、1票1作品となった。耐震改修をしている1 作品を特別賞とし、各作品について、意⾒交換を⾏ った。結局まだ各賞を決められず、残っている8 作品に対して、各審査員が3作品を投票した結果、5票3作品、3票1作品、2票1作品、1票1作品となった。そこで、5票を獲得した3 作品から、知事 賞を絞り込むため、各審査員1作品選んだ結果、「歴史的建造物とアーツアンドクラフツ」が4票(知事賞)、「世代を重ねて住み継ぐ家」が2票(理事⻑賞)、「ニコイチリノベ」が1票(企画賞)となり、知 事賞、理事⻑賞が決定した。協議を続け、3 回⽬投票で先の5 票を得た3 作品の次に得点を獲得していた「出⽔の武家屋敷」を企画賞とし、3 回⽬投票に残っていた「U ターン 趣味を活かし楽しい我家」 「DO It Yourself こだわりの家」を奨励賞とした。また、2 回⽬投票で先に特別賞に決定していた「命をまもるための耐震改修⼯事をしませんか」と同数の3 票を得ていた「南南⻄に広がる景⾊、開放感ある カフェのようなお家」「次世代につなぐ、住まいの仕⽴て直し」の2 作品も奨励賞とすることとし、結果、県知事賞、理事⻑賞は各1 作品、企画賞が2 作品、奨励賞が4 作品、特別賞(構造)が1 作品を表彰 することに決定した。
昨年も、若い建築主が空き家を購⼊しリフォームした作品があり、今年は40 歳前後の建築主が建替えでなく住み続けることを選択している昨品が多かった。社会が建替えから徐々に建築を使いつづけるこ とに変わりはじめている兆しを感じることができた。⼀⽅、ほとんどのリフォームが、和室を洋室に造り替え、畳敷きの部屋がなくなっていた。和室には障⼦で隔てられた縁側があり、その緩衝空間は、夏 の快適な涼⾵をよび、冬は寒さを緩める役⽬を果たしてきた。⾼温多⾬の⽇本の気候において、縁側の幅(約90cm)を加えると和室には、1.8m の庇状の軒の出があることになり、⾬の⽇も開け放して過ご せる。また、この⾵⼟で、素⾜で歩く畳と縁甲板の感触は快適ではないだろうか。障⼦は和紙⼀枚で隔てるので断熱性能がほとんどない無駄なものとの⾒⽅をされ がちである。しかし開き⼾は床との間に隙間があるが、障⼦のような引き⼾は⼾の荷重が敷居にそのまま伝わる構造で、床との間に隙間がなく、冷気を遮断できる。 ⻑年の経験から培われた和室と縁側は、⽇本の⾵⼟の中で、エネルギーに頼らずその⾵⼟を楽しむ粋なすまい⽅であったはずである。その空間を体験するため海外 から多くの⼈々が訪れ⽇本の伝統的な⽂化を楽しんでいるが、⽇本の多くの⼈々は、締め切った窓とエアコンにより屋外と断絶した住まい⽅を選択しつつある。温 暖化の状況下、⽇本のかつての住まい⽅を無理と断定するのでなく、⽣垣を設けることにより温熱環境を緩和し、縁側と和室を残したリフォームもあるのではない かと思う。和室造作は洋室より⼿間がかかるので後で再現するには洋室よりコストが⾼いこともリフォームの計画検討の際に考えていただけないものだろうか。審 査終了後、各応募者・設計者・施⼯者が事務局より審査員に開⽰され、また、今後のコンクールの募集内容等について意⾒が交わされた。
審査講評
住まいのリフォームコンクール審査委員会
委員長 鯵坂 徹 [元鹿児島大学工学部教授]
審査委員
委員長 | 鯵坂 徹 元鹿児島大学大学工学部教授 |
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委 員 | 八反田 淳一 (一社)鹿児島県建築士事務所協会会長 |
委 員 | 打越 綾 (公社)鹿児島県建築士会女性部会幹事 |
委 員 | 西村 昭一 (一社)鹿児島県建築構造設計事務所協会会長 |
委 員 | 岩元 ミユキ 鹿児島県インテリアコーディネーター協会会長 |
委 員 | 渡島 秀夫 鹿児島県土木部建築課住宅政策室長 |
委 員 | 松尾 浩一 (公財)鹿児島県住宅・建築総合センター理事長 |
第33回「住まいのリフォームコンクール」入選作品集 |
鹿児島県知事賞:『歴史的建造物とアーツアンドクラフツ』
今回の応募作品の中で、最も古い183 年前の古⺠家の改修。元の住宅の⾻格を踏襲しながら昭和の 増築部分を除却(減築)し、そこに歴史的な素材や地元材を使い、もとの姿に戻しながら快適な空間を創出している。暗くて使いにくいと思われがちな古⺠家を、現代の機能を⼗分に満たす素敵な建築 に改修することができることを、応募写真から読み取れ、今後の古⺠家改修の⼿本となると考えられる。設計者が改修のアイデア、デザインを競って提案するのでなく、その建築が持っているポテンシ ャルをそのまま引き出している。このリフォームの⼿法はある意味リノベーションというより、リペ ア(修理)に近いのかもしれない。地元産材と地元職⼈によるこのプロジェクトは地元経済の活性化 に寄与していることも評価したい。
再現した⼟間空間を、地域に開放できる部分とし、地元の伝統⼯芸を展⽰し、種⼦島産の材料でつ くられた家具等を配した様⼦は、古⺠家の空間を斬新なデザインに昇華させ、⼈々が⽴ち寄りたいと 思いに駆られる場である。宿やイベントスペース、塾等で使われ、多くの地域住⺠が訪れる場所とし て、まちの記憶、ランドマークとなっていくことだろう。古⺠家改修事例として素晴らしく秀逸であ ることから、⿅児島県知事賞に決定した。
『歴史的建造物とアーツアンドクラフツ』 | 株式会社 Lamp |
(公財)鹿児島県住宅・建築総合センター理事長賞:『世代を重ねて住み継ぐ家』
築35 年の亡き祖⽗⺟の⽊造住宅を、40 歳の建築主が断熱改修・耐震補強・機能向上を⽬指して改 修した作品。⽊造住宅の税法上の減価償却期間は22 年と短いためか、住宅地ではまだ使えそうな⽊造 住宅が建て替えられる姿が⾒られるが、建て替えるのでなく祖⽗⺟の想いとともに孫世代が住み続け る理想的な住み⽅のプログラムとなっている。祖⽗の庭⽊を存続、⽊造住宅の外観も著しく変えるの でなく更新されており、⼦供の頃の祖⽗⺟宅へ来たときのまちなみの記憶が継承されていると思われ る。縁側が無くなっている点や床下断熱の⽅法に疑問もあったが、リフォームとして機能⾯だけでな く意匠⾯も含めて、よくまとまった作品として評価され理事⻑賞に選ばれた。
『世代を重ねて住み継ぐ家』 | 有限会社 イヤダニ工務店 |
企画賞:『ニコイチリノベ』
⼀住⼾の⾯積が約33.4 ㎡の1DK の単⾝⽤市営教員住宅(築38 年)2 ⼾を3LDK の⼀住⼾にリノベ ーションした作品。空き家だった公営住宅の払い下げを受け改修し、40 歳のオーナーが4 ⼈家族⽤の 賃貸住宅として活⽤している。住⼾間の界壁の⼤部分を撤去するため、外壁の補強により耐震補強・ 断熱性能の向上を⾏った。既存の梁や柱を活かし、⽔廻り位置をそのまま活⽤する等、コスト縮減に 努め、約650 万円(8.5 万円/ ㎡)で⼯事が⾏われた。このような⼆⼾⼀化によりスクラップアンド ビルドを回避し、投資の対象としている点が、今後の先駆となると考えられる。屋根のコロニアルの ⽡への葺き替えや塗装により、建築の⻑寿命化にも配慮されている点が、評価された。
『ニコイチリノベ』 | 有限会社 幸福住建 |
企画賞:『出水の武家屋敷』
築155 年、明治元年の⾃宅の古⺠家の改修で、築年数が経った古⺠家も住める家に改修できること を⽰している。オーナーは40 歳代で、⽩いクロスの室内空間にリノベーションするのでなく、陰翳 礼讃を彷彿させる空間にリフォームしている。麓地区にあると記載されていることから重要伝統的建 造物群保存地区内に位置しているのではと考えられる。その場合は、重要伝統的建造物群保存地区の 区域内にある特定物件の⺠家の改修に対して、外装・屋根・構造等の修理費について国・県・市町村 から8/10 の助成がある。この作品が伝建事業により補助が得られたのかは不明であるが、⼯事費は、 18.6 万円/ ㎡、延べ⾯積が187 ㎡であることから総額3500 万円となっている。審査員からは総額が ⼤きいので、全ての⼈ができる改修ではないとの意⾒もあったが、縁側や和室等々は元の形を残し、 伝統的な素材により昔ながらのデザインでありながら、今の新築住宅に劣らない機能を⽬指している。 40 歳のオーナーが伝統的な意匠を継承し、修理修復のようなリフォームを実施された点を評価したい。
『出水の武家屋敷』 | 株式会社 建築工房 Work・space |
奨励賞:『Uターン 趣味を活かし楽しい我家』
⼀回⽬の投票から⾼い票数が⼊っていた作品で、築42 年の中古住宅を購⼊してリノベー ションした秀作。昭和50 年代の中廊下型の在来⼯法の住宅を、LDK 中⼼に個室を配し、 全て洋室とした計画で、断熱を⻑期優良住宅の補助⾦を取得し、その基準に沿い施⼯した。 基礎を含めた耐震補強を⾏い、姶良市の耐震改修の補助⾦やフラット35 リノベも活⽤して いる。リフォーム全体が、耐震・断熱・機能性等の向上に優れており評価が⾼かったが、 意⾒交換や投票を重ねた結果、改修後の平⾯がマンションの平⾯に近く、縁側と畳がなく なっており⼾建てのすまい⽅ではない印象が強くいことからか、今ひとつ企画賞に届かな かった。また、外観が無彩⾊系から濃い⻘⾊の新築さながらのデザインとなり周辺環境と の関係等懸念する意⾒があった。
『Uターン 趣味を活かし楽しい我家』 | 株式会社 建築工房匠 |
奨励賞:『Do It Yourself こだわりの家』
48 歳の施主が築42 年の鉄筋コンクリート共同住宅の⼀室を約500 万円(6.6 万円/ ㎡) で全⾯リフォームした作品で、審査の早い段階で審査員から評価する声があがっていた。 内部解体と電気⼯事以外は、施主⾃⾝で設計、床下断熱まで施⼯し、2 年間週末を使った という⼯事中の写真からは、施主の苦労と想いが伝わる。また、RC の躯体を⼀部あらわし としながら、インテリアデザインも良くまとまっており、総⼯費500 万円でリフォームし、 機能とデザインをここまで向上できたことは、素晴らしい。
『Do It Yourself こだわりの家』 | 久永 泰輔 |
奨励賞:『南南西に広がる景色、開放感あるカフェのようなお家』
もともと実家をリフォームしようと考えた38 歳の施主が、実家の痛み具合からリフォー ムを諦め、近隣の鉄筋コンクリート造中古物件(築25 年)を購⼊して、2 階建ての2 階の 住宅部分を改修した作品。⼾建ての店舗併⽤住宅の2 階住宅部分の和室を全て洋室化し、 使いやすいマンションのような平⾯計画となっており、改修案として評価が⾼かった。応 募書類に⽞関付近にあるはずの階段の記載がなく、また、外観の写真もなく、状況が今ひ とつ分からず、詳しく説明資料が添付されていれば、評価があがった可能性もある。
『南南西に広がる景色、開放感あるカフェのようなお家』 | カイコー 株式会社 |
奨励賞:『次世代につなぐ、住まいの仕立て直し』
築56 年の鉄筋コンクリートと⽊造の混構造の⼾建て住宅の全⾯リフォームした作品。施 主は28 歳で、祖⽗⺟の住まいをリフォームして、4世代に渡ってこの先も⻑く住むことを ⽬指している。理事⻑賞「世代を重ねて住み継ぐ家」と同様のすまい⽅で、20 歳代の若い 施主が、新築でなく使い続けることを選択されたことを評価したい。和室が全て洋室とな りマンション同様の間取りとなっているが、構造壁のない部分を和室で⽤いられる引⼾等 として、将来のフレキシビリティを確保してもよかったのかもしれない。また、道路境界 のブロック塀の⾼さを下げる等、地域の防災や景観にも貢献し、さらに50 年住み続けるこ とができれば、⽴派な百年建築として地域のランドマークとなることであろう。
『次世代につなぐ、住まいの仕立て直し』 | 株式会社 深野木組 |
特別賞(耐震改修):『命をまもるための耐震改修工事をしませんか』
⿅屋市内の築43 年の在来⽊造の住宅の耐震補強のリフォーム。耐震補強壁を設けて耐震 性能を向上、特にクリアランスの少ない内部⽔廻り等では、特殊な耐震改修⼯法によりコ スト削減を⾏い、95 ㎡の住宅を約154 万円(1.6 万円/ ㎡)で実施した。⼀般的な補強で はあるが、命を守るために最も重要な耐震補強が、安価でできることを⽰すことができて いることから、今年度の特別賞(耐震性能向上)に相応しいと判断した。
『命をまもるための耐震改修工事をしませんか』 | 野津建築設計事務所 |
審査講評
住まいのリフォームコンクール審査委員会
委員長 鯵坂徹[元鹿児島大学工学部教授]